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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
前へも進まず後へも退かず、真に徹底した居所攻めだ。で、やむを得ず造酒の方で、一端ひいたのを寄り戻した。同じ位置に復したのであった。「もうこれ以上は仕方がない。心気疲労れて仆れるまで、ここにこうして立っていよう」造酒は捨鉢の決心をした。こうして二人は場の真ん中に、数百人の眼に見守られながら、静まり返って立っていた。
と気味の悪い幻覚が、造酒の眼に見えて来た。相手が上段に構えている、しないの先へポッツリと、真紅のしみが現われたが、それが見る間に流れ出し、しないを伝い鍔を伝い、柄頭まで伝わった。と思うとタラタラと、床の上へ流れ落ちた。他でもない血潮であった。ハッと思って見直す、とそんなしみなどはどこにもない。「何んだ馬鹿な!」と思う間もなく、またもや同じしないの先へ、ポッツリ真紅のしみが出来、それがタラタラと流れ下った。プンと生臭い匂いがした。とたんにグラグラと眼が廻った。同時に造酒は、「しまった!」と思った。「打たれる! 打たれる! いよいよ打たれる!」
果然相手の千代千兵衛の眼が面越しに火のように輝いた。と同時に武者顫いがその全身を突き通った。
「今、打たれる! 今、打たれる!」