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めいしょうまんげつ

名娼満月

夢野 久作

「富士」1936(昭和11)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页

青空文庫

囃し連るる三味線太鼓、鼓の音なぞ、今までに例のない物々しい道中の前触れに続いて、黒塗、三枚歯の駒下駄高やかに、鈴の音もなまめかしく、ゆらりゆらりと六法を踏んで来る満月花魁の道中姿。うしろから翳しかけた大傘の紋処はいわずと知れた金丸長者の抱茗荷と知る人ぞ知る。鼈甲ずくめの櫛、簪に後光の映す玉の顔、柳の眉。綴錦の裲襠に銀の六花の摺箔。五葉の松の縫いつぶし。唐渡り黒繻子の丸帯に金銀二艘の和蘭陀船模様の刺繍、眼を驚かして、人も衣裳も共々に、実に千金とも万金とも開いた口の閉がらぬ派手姿。蘭奢待の芳香、四隣を払うて、水を打ったような人垣の間を、しずりもずりと来かかる折から、よろよろと前にのめり出た銀之丞、千六の二人の姿に眼を止めた満月は、思わずハッと立佇まった。二人の顔を等分に見遣りながら、持って生れた愛嬌笑いをニッコリと洩らして見せた。

魂が見る間にトロトロと溶けた二人は、腰の蝶番が外れたらしい。眼を白くして、口をポカンと開いたまま、ヘナヘナとその場へ土下座して、水だらけの敷石の上にベッタリと並んで両手を支えてしまった。茫然として満月の姿を見上げたのであった。