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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

あれはモノになるぜ。大切に使うほうがいいな。

静江 かつはあたしの召使いですから、お差図はいりません。

浜口 この家の生活には、いぜんはいくらか秩序や規律のようなものがあった。清潔とまではいかないが、卑俗な習俗が入りこむ余地はなかったものだが、一郎が引揚げてきたとたんに、なにもかも駄目になってしまった。一郎を足踏みさせなかったのは、理由のないことではなかったんだぞ。

かつ、入ってくる。

かつ 秋元さんがお見えになりました……お差支えなかったら、奥さまにも、とおっしゃっていられますが。

静江 (不安そうなようすになって)あらたまって、どうしたというのかしら。

浜口 (これも、思いあたることがあるふうで、かつに)なんだというんだ?

かつ ご用向きはおっしゃいませんでした。

浜口 (しばらく考えてから)広廊へ。

かつ かしこまりました。(退場)

浜口、静江、広廊の籐椅子に掛ける。

浜口 変な顔をしているな。どうかしたのか。

静江 あなたこそ、どうかなすったんじゃないの……汗をかいているわ。

浜口 おれの汗のことは、放っておけ。

秋元、つづきの廊下から広廊へ入ってくる。

秋元 おはようございます。