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うそアつかねえ

嘘アつかねえ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1950(昭和25)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,523 字 · 24 页

青空文庫

話で抑えられていた酔が、みるみる盛返しふくれあがるらしい。

「おらあ父のようにゃアしねえ、この眼で見てるんだ、いやッてくれえ耳で聞いてるんだ、まっぴら御免くそくらえだ、……女に桶が作れるか、腰ッ骨の折れるような人足稼ぎが出来るかッてんだ、……おらあ横ッ面アはっとばしてやる、ぱんぱん、……こうだ、ぐっとも云わしゃしねえ、頭からどなる、やい阿魔ッ釜の下あ焚きつけろ、足を洗うんだッ水を持って来い、ぐずぐずしやアがると足の骨をぶっ挫くぞ、……こうだ、飲みたくなりゃア酒を買いにやる、夜中だってなんだって会釈はねえ、やい阿魔ッいって酒を買って来い、……嘘アつかねえ、おらあこの式よ、父はそれが出来なかった、父は、……だがおらあまっぴらだ、へい、まっぴら御免候だ」

松はぐらぐらと頭を垂れ、右手には湯呑を持ったまま、台板へ俯伏してしまった。

「へえ、まっぴらだよ、なにょウぬかしゃアがる、けつでもくらえだ、……べらぼうめ、女がなんだ、嬶がなんだッてんで」

「お客さん、あたい買っと呉れよ」

耳のそばでこう囁かれて、信吉は殆んど吃驚して振返った。いつ来たものか、お琴がぴったりと躯を寄せて立っていた。