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とらわれびと
囚われ人
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页
もう駄目だと思った。そして眼が覚めたんだ。
煙吉――ほほう、そんな夢か。それじゃあお前は、俺たちに感謝していいよ。俺たちのお陰で、お前は淵に落ち込まなかったんだからな。
議一――夢の中のことだよ。
煙吉――夢にしてもさ。俺たちがお前を叩き起してやったんだ。
議一――魘されてでもいたのかい。まったく、あの深い淵はいやだった。胸がむかつくようだ。
酒太郎――夢の話なんか止せよ。胸がむかつくようなら、もっと酒でも飲め。
愛子――この真珠菓子を食べたのが、いけなかったんじゃないの。
時彦――ばか言うな。これを食べたくせに居眠りなんかするから、いけないんだ。然し、この男はちょっと変ってるな。夢の話も捨てたもんじゃない。ちっとばかり、気骨を持ってるようだ。
酒太郎――なあに、気骨もくそもあるものか。さあ、飲め飲め。
議一はぼんやり酒瓶を取り上げる。一同も再び飲み食いを始める。席は乱雑になる。
間。
不思議なことが起った。議一を除いて、他の者たちは、後ろから髪の毛でも引っ張られるかのように、時々、手を挙げて後頭部を打ち払う仕種をし、振り向きもする。
酒太郎――誰だ、俺の髪の毛を引っ張るのは。