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しじゅうふわく

四十不惑

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,633 字 · 26 页

青空文庫

言葉をそのまゝに受けることが出来る。

「あなたはこの頃いかにも楽しそうね」

と或晩妻が話しかけた。補講を受けた後だった。

「まだ法悦の境に入るほど進んでいないけれど」

「いゝえ。小柴さんと御一緒の時よ。私、結構だと思いますわ。仕事をする人は若さが必要です。老い込んでは駄目です。若いお方と御一緒だと若やぎますから」

「さあ」

話が余り誂え向きなので、僕は一寸警戒した。

「惑わなければいゝのよ。私、ヤキモチなんか焼きませんわ」

「うむ」

「唯矩を越えないことよ」

「矩は越えない。しかしお前がそう言ってくれるから、おれも本当のことを言う。おれは自分で自分が分らない」

「どういう意味? それは」

「他のタイピストは眼中にないが、小柴さんだけが好きで困る。話していると唯々嬉しいんだ」

「老らくの恋ってものでしょう」

「まだ老らくという年でもない」

「あなた、それが惑いよ。迷いよ。四十を越して若い積りでいらっしゃるのは大きな錯覚ですわ」

と妻が強く言ったので、僕は又釣針にかゝったのかと思った。

「若いと皆言ってくれるんだ」

「課長さんはお年寄ですとは誰だって言いませんよ。あなたがまだ若い積りでも、小柴さんはあなたなんか何とも思っていやしませんわ。