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としょかん

図書館

宮本 百合子

「文芸」1947(昭和22)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,707 字 · 14 页

青空文庫

以前に来たときは、三階の大廊下を右へ入ったところに婦人閲覧室があった。重い古新聞の綴じこみをかかえて、廊下へ出て来てみると、そっちへ行く大扉が閉められて、つき当りの一室が開いているだけである。新聞は「特別」で、先頃は特別閲覧室でみなければならなかった。広間の入口で、学生に、婦人閲覧室はどこでしょうときいたら、不思議そうに一寸黙っていて、ここです、と答えた。ここというのは、一般閲覧室である。入って行ってみると、男女区別なしに隣りあって読書したり、ノートしたり、居睡りしたりしている。戦争はその結果としていろいろの変化をもたらした。けれども、この役人くさい図書館が、やっと世間なみに、男女共通の閲覧室をもつ決心をしたということには一種のユーモアがある。

男子、女子の区別は、従来の日本の半官的な場所では愚劣なほど神経質であった。上野の図書館には、明治の前半期に樋口一葉がよく通った。一葉日記に、ここは屡々出て来る。その頃、おそらく一人か二人しかいなかったであろう女子の閲覧人は、どういうところで読んだり勉強したりしていたのであったろうか。私の記憶にあるはじめの婦人閲覧室は、現在、手洗場のある長廊下のつき当りの小さい光線の不十分な一室であった。