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とさのくにばしら

土佐の国柱

山本 周五郎

「読物文庫」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,375 字 · 35 页

青空文庫

一豊は……果報めでたき生れつきだと思う」

斧兵衛は声をのんで平伏した。一豊は暫く息をついていたが、

「わしはするだけの事をした」

と静かに続ける。「もういつ死んでも惜しくはない。唯ひとつ……心残りなのは、わしが不徳であったばかりに、生前、この国の民心を統一することが出来なかったことだ」

「…………」

「これだけが往生の障碍だぞ」

斧兵衛の肩の震えるのが見えた。

一豊が土佐に封ぜられたのは、慶長五年であった。その以前は、長曽我部氏が領主で、元親、盛親と二代続いた名君であったから、領民たちは神の如く崇拝し、また慈父に対する如く馴着いていた。……だから、一豊が入国しても、彼等は敢えて恭順を表さなかった許りでなく、却って反感をさえ懐いた結果、或は一豊の行列に向って罵詈を飛ばし、石を投ずる者さえ出て来る有様であった。

併し、一豊は忿激する家臣を戒めて、

「猥りに罰してはならぬ。体を斬ることは出来ても心中の逆意までは斬れない。我に向って石を投げるのは、前の領主を追慕する心からで、これを善導し撫育すれば、やがては我のためにも、不惜身命の民となるであろう。……刑罰を厳にしただけでは、決して国は治まるものではないぞ」