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とちにかえる

土地に還る

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页

青空文庫

いつものようにやさしく見てやらなかったのでしょうか。彼は自ら腹立たしい思いに沈んで、焼酎を飲みました。そしてすっかり酔いました。

その夜、どういう風に寝床についたか彼は覚えませんでした。そして、夜中にざーっと雨が降ったらしいこと、それから、なにかざわざわと物音が表にしたこと、そんなことをかすかに覚えていました。

翌朝、噂はすぐ近所に拡がりました。夜中に、田中正子が毒薬をのんで自殺をはかったが、それを発見されて、生命は助かったというのです。原因は何にもわからず、ただその前夜、兄の亮助と大喧嘩をしたというだけで、喧嘩の内容は少しも分りませんでした。

笠井直吉は休暇にあたる日で、遅く起き上りました。噂を聞いて、宿酔ぎみの重い頭をかかえましたが、何の判断もつきませんでした。見舞に行くことも、田中家で親しいのは当の正子きりでしたから、遠慮されました。坪谷仁作はもう郵便局に出動していましたし、保子は噂を直吉に伝えたきりで、何の意見もいいませんでした。恐らく何の意見も持たなかったのでしょう。

飲み残しの焼酎を少し飲んで、直吉は自分の耕作地へ出かけました。そこが、最も心安まる場所でありました。