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とちにかえる

土地に還る

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页

青空文庫

次に或る人々は、それを一目見て、すぐに視線をそらしました。次に或る人々は、それがそこにあることを知っていて、見ない先から眼をそむけました。

そういうことによって、笠井直吉は、自分が特異な存在であることを感じました。そして謙遜な彼は、自分のその特異さを、なるべく人目につかないところへ後退させようとしました。郵便局では、彼は奥の事務を執っていましたが、窓口の方には、そこがどんな状態であろうと、決して近づかないことにしました。日常は、なるべく出歩かないことにしました。その代り、これは自己卑下の気持ちからして、配給物の受け取りなどには、隣組のために進んで出かけました。

彼が好んで身を置くところ、というよりは寧ろ、好んで身を隠すところは、焼け跡の耕作地でした。終戦の年から翌年へかけて、食糧の窮迫と食糧危機の予想とにより、至る所にある焼け跡は、奪い合うようにして耕作されました。蟻が巣のまわりに餌をあさり歩くように、焼け残りの人家の聚落から四方へ耕作の手が延ばされました。その中で彼は、立ち後れながらも、あちこちに耕作地を占拠しました。地主や借地者にもわたりをつけました。