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ざいがくりゆう
在学理由
豊島 与志雄
「日本評論」1938(昭和13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页
一合二十銭の安酒のせいか、バットの煙のせいか、言葉の調子のせいか、いずれ、ほんの僅かなそして微妙なきっかけだ。それで可笑しくなって、陽気になった。印半纒自身も笑いだして、青年に盃を差しつけた。
「小僧さん、飲めよ。」
「親父さん、飲めよ。」
だがそれはもう、印半纒と浮浪ではなくて、彼等のそして皆の肚の中では、そこにいない彼とその息子とのことだった。
そうして彼は「おやじ」になったのだが、変なことから、その綽名がなお強調された。
常連のなかに、三十六七歳の独身者がいた。自分では独身主義だと云っているが、実は主義というほどのものではなく、生活的なあらゆる事柄に対して卑怯で、放蕩と飲酒とのうちに身をもちくずしてる男だった。いつも旧式な鳥打帽をかぶってるので「とりうち」として通っていた。
その「とりうち」が、或る時「おやじ」と落合って、いい加減に酔が廻った頃、いやに丁寧な様子で「おやじ」に盃をさした。
「あなたに、ああいう立派な息子さんがあろうとは意外でした。仕合せですなあ。ひとつ受けて下さい。息子さんと……親父さんとの、健康を祝して……。」
「おやじ」はぎろりと眼を光らしたが、その反応が自分の胸にきたらしく、それをごまかすかのようにやけに手を振って、これも丁寧に云った。