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ざいがくりゆう
在学理由
豊島 与志雄
「日本評論」1938(昭和13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页
李は子供のような喜びを顔に浮べて、帰っていった。
それから二十日間ばかり、李は姿を見せなかったが、或る夕方、威勢よくやって来て、是非とも一緒に食事をしに出かけてくれと頼むのだった。
「あの三十円はたいへん役に立ちました。先生に返したって、どうせ使ってしまうんでしょうから、お礼のつもりで、私に食事をおごらせて下さい。先生の好きなところで、余り高くないところなら、どこでもよいんです。」
吉村はもう李の本心を信じかねるような気持になっていたが、李があまりむきになって誘うので、散歩のつもりで外出した。
歩きながら、李はこんなことを云った。――あの三十円は、実は、例の「おやじ」の息子が、「おやじ」の新旧の飲み代に困ってるので、貸してやった。然し、考えてみると、ああいう思想は、金がかかって、貧乏人には困る。それかと云って、実践の裏打のない単なる抽象的な思想は、何等の価値もない。金のかからない実践可能な思想が必要なのだが、それが、見出せないのが悩みだ。そういうことから、いろいろ考えた末、自分自身の方も、もう大学部に五年間もいるんだから、今年きりで卒業してやろうかと思っている。