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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

すると主婦さんと人相の卑しい四十男とひとりの女とが、赤暗い電燈の光に照らされているのを見た。白味のかったセルの単衣に毛繻子に藤紫と紅のいりまじった友禅をうちあわせた帯をしめている、ほっそりした身体つきが、お光には卑しい身分でないことを知らしめた。お光が水にぬれた手を前掛で拭いつつ土間の片隅から上りかけると、隅に女のらしい水色の洋傘がよせてあった。傍を通るとき男は「いや、どうもすみません」と少し背を曲げるようにした。そのとき女はそっと顔をもたげて黙礼した。非常に美しいとはいえなかった。少し蒼味の勝った顔全体には、無愛想な精神的な上品さと、初心な純一さと、苦労して来たらしい淋しい神経質な陰鬱さが現われていた。女は何気なく黙礼したらしかったが、そこに予期しないお光を見出してはっと竦んだらしかった。赤くなるより青く沈む質であるらしかった。お光は二階へ上って、またひとりの女が深淵へ堕ちてゆくのだと思うといい気がしなかった。そして自分の無力が恨めしかった。平一郎ひとりを立派な人間に育てあげること一つさえ全力をつくして足りない自分がみす/\多くの人の堕落して行くのを見すごしていなければならない自分を悲しく思った。