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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
彼は習字や図画の手先の学科こそ並はずれて下手だったが、他の理論的な、もしくは情意的な学科には大きな能力の芽を現わすことが出来た。奔放な想像は外国地理の時間に、地球全体を自分の意志で調和あらしめ、和歌子が王妃で自分が帝王であったら実にいいと熱した。歴史の時間には時代興亡のあと、勝れた人格の生活のあとを自分の身に比べて、ある戦慄を止めることが出来なかった。あのように常に彼をして味気ない淋しさに堕す「貧乏」「家なし」「親なし」という哀れな境遇が彼には、大自然が自分にある使命を齎らしたしるしであるとさえ勇気づけられた。「自分は貧乏だ。しかしそのために自分は、自分本来の精神の伸びゆくさきを曲げるわけは毫もない!」彼は巨大な肉体の所有者でなかったので、無論選手級ではなかったが、野球も柔道も剣道もやった。
しかし、お光母子には未だ数しれぬ試練が与えられねばならないのであろう。悲しいことには、お光には彼女一人の手で二人の生活費と平一郎の学費とを与えてゆくことが出来なくなって来ていた。亡き夫の唯一の遺品であった家を売った金も、もう残り少なになってしまっていた。どうにかしなくてはならなかった。