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ちていせんしゃのかいじん

地底戦車の怪人

海野 十三

「ラヂオ子供の時間」(「地底戦車兵の冒険」のタイトルで。)1940(昭和15)年2月~

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,000 字 · 111 页

青空文庫

なぜなら、手を林檎の方へのばしたが最後、せっかくの林檎が、しゃぼん玉に手をつけたように、つと、消えてしまうのではなかろうか。幻にしても、林檎の形が、見えている間はたのしい。幻が消えてしまえば、どんなに、つまらないだろう。それを考えると、ピート一等兵は、手をのばすこともならず、からだを化石のようにして、足許へ転がってきたその怪しい林檎の形を、見まもった。

だが、その林檎の色は、あまりにうつくしかった。まっ赤なつやつやした色が、食欲をそそりたてずには、おかなかった。そして、あの甘ずっぱい林檎の匂いまでが、つーんと彼の鼻をつきさしたように思ったのである。

ついに、ピート一等兵は、幻の林檎の誘惑に敗けてしまった。彼はぶるぶるふるえながら、手をのばした。そして、思いきって、林檎をつかんだ。

「おやッ」

大きなおどろきのこえが、彼の口をついてとびだした。

「あっ、ほんとの林檎だ!」

彼は、その場に、おどりあがった。林檎を頭の上に押しいただきながら……。そして、ひょっとしたら、自分は、とうとう気がへんになってしまったのかもしれないと、考えながら……。

「おい、どうした、ピート一等兵。