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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

これで、もう、思い残すことはなかった。明るい太陽の光が、心の隅々まで射しかけ、歌いだしたいような快活な気持になった。

そして、これを、自分にくれたわけは?……竜太郎には、その意味がはっきりとわかっていた。

(それで、いいのだ)

竜太郎が、たずねた。

「……つまり、これを持って、あきらめて帰ってくれとおっしゃるんだね」

ヤロスラフは、答えなかった。眼に見えぬほど、その頬が、紅潮した。

竜太郎はつづけた。

「よくわかりました。僕は今晩マナイールを発ちます。……王女の御厚意は終生忘れませんと言っていたと、お伝えしてください。御幸福を祈っていますと……」

ヤロスラフ少年が、いった。

「お送りします。自動車が、もう、参っております」

竜太郎は、頭をさげた。

十三

嶢※たる岩山に沿った泥濘の道を、自動車は、どこまでも走って行く。夜は暗く、深かった。宵のうちに、ちらと月影がさしたが、間もなく、また暗澹たる黒雲におおわれてしまった。ただ見る赭土の丘と、岩とわずかばかりの泥楊だけの、荒涼たる風景だった。風が吹いているとみえ、楊がゆるやかに体をゆすっていた。

どこへ連れてゆかれるのか、竜太郎は、まるっきり知らなかった。