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はかば

墓場

西尾 正

「真珠」探偵公論社、1947(昭和22)年11・12月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,934 字 · 20 页

青空文庫

スティヴンが最後の絶望的な警告を発してからは幾世紀もの時間が経ったように思われたと言いましたが、ついにわたくしの叫びが忌むべき沈黙を破りました。

しばらくして受話器がプツプツ鳴り、緊張して耳をすませながら、再び下に呼びかけたのです。

「スティヴンそこにいるのか?」

そしてその答えの中に、わたくしの心に雲をもたらせたものの気配を感じました。わたくしは、皆さん、決してその妖物の説明をしようとは思いません。――その声を、――また細かく説明しようとは思いません。何故なら、最初のたった一つの言葉がわたくしの全知覚を奪い、病院で気がつくまで自失していましたから。

その声を、深い、うつろな、こわばった、遠い、この世のものとは思われぬ魔物のような、無形の、――とでも形容すべきでしょうか? 何と言ったらいいでしょうか? それはわたくしの経験の最後のものでした。そしてこの話の終わりでもあるのです。わたくしはその声を聞きました。何にも知りませんでした。――崩れ石、落ちかけた塔、雑草や不吉な霧の中で、空虚な未知の墓場の中で、体を硬ばらせたまま聞きました。定かならぬ影が青ざめた呪いの片割れ月の下で踊っているのを見つめながら、――かの忌むべき、ひらかれた墓の内部の最深淵から上がって来る声を、はっきりと聞きました。