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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

「私はお願いがあります。澄子さんを……私に下さいませんか、私と結婚を許して下さいませんか。一生、命にかけても、私は澄子さんを愛してゆきます。許して下さい。一生のお願いです。」

辰代はぶるぶると身を震わして、なお一寸つっ立っていたが、くるりと向き返って縁側に出で、さも忌々しいといったように、澄子の着物を打ちはたき、それを奥の室の隅に投げやり、玄関の室との間の襖を、手荒く閉め切っておいて、また蚊帳の中にはいって来た。そして、布団の上に坐ってる澄子へ、叱りつけるように云った。

「早く寝ておしまいなさい!」

澄子は驚いて布団の中にもぐり込んだ。母が今井の言葉に対して一言も云い返さなかったのが、異常な恐ろしいことのような気がした。母が息をつめて歯をくいしばってる様子まで、まざまざと見えてきた。しいんと静まり返った中に、一刻一刻が非常なもどかしさでたっていった。澄子は堪えきれなくなって、おずおず呼んでみた。

「お母さん!」

「まだ眼を覚してるのですか。」と母はすぐに応じた。「早く眠っておしまいなさい!」

澄子は布団の中に額までもぐり込んだ。息苦しくなってまた顔を出した。