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へんじんでん
変人伝
佐々木 邦
「日の出」新潮社、1934(昭和9)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,178 字 · 21 页
と叔父は何処までも植物学だった。
母も諦めた。しかし大野家から出たのだから責任を感じている。
「それじゃ雅男に植物学をやらせて、後を継がせたら何う?」
と持ち出した。雅男は中学四年生だった。
「結構ですね。雅男、やるか?」
「厭ですよ、僕は。僕は国家の為めに尽すんです」
と雅男は弾ねつけた。
「馬鹿野郎!」
と叔父は大喝した。叔父は植物学こそ国家の為めだと思っている。
僕は、叔父が来るたびに気が荒くなっているように感じた。一種の病気だろうと思った。その翌年だったか、翌々年だったか、叔父は女子高等師範学校へ転任した。新聞で辞令を見て、父がお祝いの手紙を出したら、直ぐにその返事が来た。葉書だった。
「拝復、今回は栄転に無之、寧ろ左遷に候。同僚の国文学と議論の末、腕力に及び候為め也。喧嘩はこれにて三度目ゆえ、学校長に気の毒と存じ、逃げ出し申候。御一笑被下度。早々頓首」
恐らく国文学は学問でないという主張だったろうと僕は察した。常例に反して直ぐに返事を寄越したのは、あの議論の為めには職をも賭するという示威だったかも知れない。
「矢っ張り叔父さんは変人ですね」
「変人さ」