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なつのよのぼうけん

夏の夜の冒険

平林 初之輔

「文学時代 第二巻第九号」新潮社、1930(昭和5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,930 字 · 12 页

青空文庫

私たちはどんどん叩いた。

――ごめん下さい……今晩は……と大きな声でどなった。

それでも家の中はしずまりかえっていて返事がない。

癪にさわるのでますますひどく木戸を叩きつづけた。

最初、何事だろうと思って近所の人が起きてきた。

そのうちに、やっと、玄関にあかりがさした。そして、いかにものろい動作で戸があけられた。

――貴方がご主人ですか?

――はあ。

主人というのはまだ三十五六位のおとなしそうな男だった。

――ずいぶん声をかけたのですが聞こえなかったんですか?

――ちょうど寝入りばなだったものですから。

――ではおやすみになっていたんですか?

――はあ。

私と主人が話をしていると、いきなり後ろから時国がどなりつけた。

――おい、君は今きいておればねていたんだそうだが、君の子供がいまどうなっているか知ってるのか?

――…………

――君の子供はいま死にかかってるんだぞ。

――今頃になって自分の子供が帰ってこないのに、三十ぺんも戸をたたかねば眼がさめんほど熟睡しているなんて、それでも君は親か? 人間か?

――ずい分さがしてみたんですけれど。……

――わからなかったからねてしまったっていうのか? 馬鹿ッ。