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ゆうもやのなか

夕靄の中

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,522 字 · 19 页

青空文庫

墓は豪奢な区域から、しだいに簡素となり、貧しくなる。一方は金に飽かして造り、絶えず手入れをして、拭き清めたようにきれいになっているが、片方では古びて、欠けて、傾いだり倒れたりしたのや、また竹垣もなく墓石もなく、ただ数枚の卒塔婆を立てたばかりのものもある。

――貧乏人は死んでもこんなものだ。

彼は唇を歪めた。幾曲りかすると、もう道にも石は敷いてない。下駄の歯の跡の付いた、裸の赭土つづきで、安い線香と土の、気のめいるような匂いが漂っていた。墓はどれもささやかで小さい、古いのも新しいのも、みな狭いところへごたごたと倚り合って、恰もかれらが生きていたときのように、慎ましく控えめに、じっと肩をすぼめているようにみえた。

彼は足を停めた。

右がわに新しい墓があった。それはごく新しく、まだ十日とは経たないのだろう、盛上げた土も乾かず、白木の墓標の表の名号を書いた字も、墨の香が匂うようであった。……彼は墓標のうしろへまわってみた、俗名おいね、年は二十六歳、命日は十三日まえの、霜月七日と書いてあった。

「おいねちゃんていうんだね」彼はそっと呟いた、「――縁のない人間が花なんぞあげて、迷惑かもしれないが、のっぴきならぬばあいだから勘弁して貰うよ」