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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

」と、久左衛門は私に云うが、参右衛門はそうすると、

「いられんと思うの。初めてのものには、冬は無理じゃ。」という。

一つの家に他家族との雑居は、どこまでこちらが他の方を邪魔しているのか程度が分らず、その不分明な心の領域がときどき権利を主張してみて暗影を投げる。影は事の大小に拘らず心中の投影であるから、互いの表情に生じる無理が傷をつけあう。しかし、こういうことはここの農家ではあまり生じない。参右衛門の無作法さや我ままは怠け方同様に傍若無人で立派である。

十一月――日

自分はいったいいつまで続く自分だろうか、よくも自分であることに退屈せぬものだ、と私はあきれる。外では、ひと雨ごとに葉を落していく山の木。茂みは隙間をひろげて紅葉を増し山は明るい。部屋に並べてある種子箱で、小豆が臙脂色のなまめかしい光沢を放っている。毛ば立った皮からむき出た牛蒡の種の表面には、蒔絵に似た模様が巧緻な雲形の線を入れ、蝋燭豆のとろりと白い肌の傍に、隠元が黒黒とした光沢で並んでいる。しかし、これらももう私の憂鬱な眼には、ただ時の経過を静に支えていてくれる河床の石のように見える。

赤襷の娘が秋雨の降りこむ紅葉の山越え、魚を売りに来る。