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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

小沢、かけつけて来て、四つ辻を曲り、標札を見ている。

門燈のあかりに「横井喜久造」という標札の字が浮び出ている。

小沢、立ち停り、玄関の戸に手を掛ける。

┌────────┐

│ 針助の家の中 |

└────────┘

小沢はいって来る。

針助はぎょっとする。

針助「誰や、お前は……?」

小沢「豹でも龍でも亀でもない」

と、気ざっぽい科白だが、中之島公園で演説した気持の延長で、言う。

針助「な、なにしに来た?」

小沢、ふと部屋の隅に掛った女の着物を目ざとく見つける。

小沢「着物を取り戻しに来た」

針助「着物……?」

小沢「そうだ。そこに掛っているその着物だ。昨夜、ここから裸のまま飛び出した娘の着物だ。その娘は、着物がないために、宿屋の着物を盗もうとして、警察へつき出された。その娘を救うために、証拠にその着物がいるんだ」

針助「そんなこと、おれは知らん」

小沢「白っぱくれるのはいい加減にしろ、唖の娘に今日刺青をしたのは誰だ。この子供らを何のために裸にしているのだ。昨夜の娘は何のために裸のままここを逃げ出したのだ」

針助「うーむ」

と、うなっていたが、いきなり畳の上の針を手に取って、次から次へ小沢めがけて投げつける。