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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「ところで、君ひとり……?」
「……? ……」
豹吉には小沢のきいていることが、直ぐには判らなかったが、やがて、
「ああ」
と、豹吉流に解釈して、
「――むろん一人です!」
昂然と胸を張って答えた。
「そう……? しかし、まア、一人でもいいだろう」
「一人で十分ですよ」
「そりゃ、一人でも悪いとはいえないが……。とにかく、はいり給え!」
そして小沢は急に声をひそめると、
「――君、自首しに来たんだろう……?」
「自首……?」
豹吉は思わずきき直した。
「そうだ。しかし、よく自首する気になったね。大したもんだ」
小沢はひとりでそう決めていた。
豹吉はあっけに取られた、腹が立つというより、むしろ噴きだしたかった。
「早合点もええ加減にしろ。ここは中之島公園とちがうぞ」
と、豹吉は例の唾をペッと、S署の玄関の石段の上へ吐き捨てて小沢に言った。
「――誰が自首なんかするもんか」
「じゃ、何しに来たのだ……?」
「…………」
咄嗟に答えられなかった。雪子を救いに来たと言えやしない。
「正直に云ったらどうだ。自首だろう……?」
「…………」
「年貢の収め時――という古くさい言葉があるが、君もそこへ気がついたのは莫迦でなかったよ。