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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
大阪弁だった。
「じゃ、今はきくまい」
と、小沢は今はという言葉に含みを残して、
「――とにかく、寝ることにしよう。君は寝台で寝給え」
「ええ」
娘はうなずいて、素直に寝台に上りかけたが、ふと振り向くと、
「あなたは……?」
どこで寝るのかと、きいた。
「僕はここで寝るよ」
小沢は椅子に掛けたまま、わざと娘の顔を見ずに言った。
「そんなン困るわ」
娘は寝台の傍で、ちょっと体をくねらせて、鼻に掛った声で言った。
女の大阪弁というものは、含みが多い。だから、娘のその言葉、そしてその声は、何か安心したようにも、甘えて小沢を責めているようにも、そしてまた、恐縮しているようにも聴えた。
「そんなン困るわ」
といったが、一体どういう風に困るのか、いや、本当に困るのか、小沢にはさっぱりその意味が汲み取れなかった。
つまり、小沢にはその娘の心理がまったく解らぬのであった。
なぜ解らぬのか……。
ありていに言えば、小沢の心の底には、既にその娘への、ある種の(といってもいい位複雑な)関心がひそかに湧いていた――その関心があるために、もう娘の心理が解らなくなってしまったのかも知れない。