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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

亀吉はふと悲しそうに、

「――二人とも死んでしもた」

「阿呆、その両親と違うわい。心の良心や」

「ああ、それか。それやったら、一寸だけある」

「ほな、返しに行け」

「…………」

亀公は何か言いたそうに、唇を尖らせた。

「復員軍人テお前どんなもんか知ってるやろ。たいてい皆いやいや引っ張り出されて、浦島太郎になって帰って来た連中やぞ。浦島太郎なら玉手箱の土産があるけど、復員は脊中の荷物だけが財産やぞ。その財産すっかり掏ってしもても、お前何とも感じへんのか」

「…………」

亀吉は眼尻の下った半泣きの顔を、お加代の方へ向けた。

お加代は煙草を吹かしながら、ぼそんと口をはさんだ。

「……良心か。ペペ吉も良心なんて言い出しちゃ、もうおしまいだねえ。女に惚れると、そんなにしおらしいことを云うようになるもんかなア。掏摸をするのに、いちいち良心に咎めたり、同情していた日にゃ、世話はないわねえ」

「お前は黙っとれ」

ペペ吉の豹吉はきっとお加代を睨みつけて、

「おれの言うてるのは、そんなけちくさい良心と違うわい」

「じゃ、けちくさくない良心テ一体どんな良心なの?」

「けちくさい仕事はせんというのが、掏摸の良心や、浦島太郎みたいに、ぼうっとなっている引揚早々の男を覘うのは、お前けちくさ過ぎるわい。