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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

――おい、亀公、お前も掏摸なら掏摸らしゅう、もう一本筋の通った仕事をしろ」

返して来いと、豹吉はすさんだ声で言った。

「返せと言うたかテ、どこを探したらええか、さっぱり判らんがな」

「判らなかったら、一日中駈けずり廻って探して来い――いやか。いやなら、いやと言え!」

「返すよ、返すよ。返しゃいいんだろう」

しかし、亀吉はまだぐずついていた。が、「ハバ、ハバ!」

と、言われると、

「オーケー」

自分の言葉に軽く押し出されるように、亀吉はひょいとハナヤを飛び出した。

次郎と三郎は、びっくりしたような眼を見合せていた……。

大阪の憂鬱

丁度その頃――。

というのはつまり、亀吉が豹吉にいいつけられて小沢十吉を当てなく探しに、千日前のハナヤを出た頃――。

雪子は阿倍野橋の宿屋の一室に寝巻のまま閉じこもって、小沢の帰りを待ち焦れていた。

妙な一夜が明けて、朝小沢は眼を覚すと、雪子に言った。

「君、どうする……?」

「どうするって……?」

「帰れる、その恰好で……」

「帰られへんわ」

寝巻に細帯だけだった。おまけにその寝巻は宿屋のものなのだ。よしんば借りて帰るにしても、温泉場の夜ならともかく、白昼の大阪の町を、若い娘の寝巻姿は目立ちすぎる。