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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「預けた品はわかってるんですが……」
「ふん、どうせ闇のもンやろ」
小沢はむっとした。が、声は柔く……というより、むしろ情けない調子で、
「昨日復員したばかしで、実はその荷物なんです。毛布は麻繩を掛けたやつですから、見ればすぐ……あ、そうだ、名前もついている筈です。小沢十吉です」
「なんや、復員の荷物か」
係員は吐きだすように言った。
「そうです」
小沢は腹が立つというより、むしろ情けなかった。
こういう所の人々の中によくある妙に威張った態度は、戦争中と少しも変っていない。彼等は家庭に帰れば皆善良なる市井人であり、職場では猫の口が喋る如く民主主義を唱え、杓子の耳が聴く如くそれに耳を傾けている筈だが、しかし、人間を愛することを忘れて、いかなる民主主義者があろうか。
復員者に冷たく当りたがる人々の気持はむろん判らないわけではなかった。しかし、復員者はすでに人間として帰って来たのだ。いや、むしろ「人間になろうとして」帰って来たのだ。いわば、まだ本当の人間になり切っていないのだ。それだけに、
「なんや、復員か」
という一言が、彼を悪の華の咲く園に追いやり、太陽の光線よりも夜光虫の光にあこがれさせてしまわないとは、断言できない。