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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「あたしじゃ話せませんの……?」
と、道子の声は何か鋭く、その鋭さは小沢にはふと意外だった。
「ええ、ちょっと……」
こんどは本当に頭をかきながら、
「――たすけると思って、貸していただけませんか」
道子は急に立ち上って、茶の間を出て行った。
そして、奥の部屋で何やらヒソヒソ言っているらしかったが、やがて戻って来ると、
「折角ですけど……」
お貸し出来ませんわと、悲しそうな表情を唇に見せながら、その唇をキッと噛んだ。
「どうして……」
駄目ですか――という眼で、小沢はちらと道子の顔を見ると、道子はキッと唇を噛みながら暫く、あらぬ方を見つめていたが、やがて、
「著物差し押さえされました」
本を読むような、表情のない声で言って、ふと、微笑むといつものえくぼが浮かんだ。
しかし、そのえくぼには寂しい翳があった。
「えっ……? サシオサエ……?」
咄嗟に、意味が判らなかった。
「執達吏が今うちへ来てるんです」
「ああそれで……」
判った。
さっき玄関で見た三足の男の靴は、サシオサエに来ているのだったかと、判ったが、
「――しかし、どうして……?」
と、疑問は残った。
「兄が高利貸に借金したんです」