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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

――大将、靴みがきまひょ」

「大将、みがきまひょ!」

一人の男が通り掛ったのだ。

男はすっと寄って来た。

「オー・ケー」

おおけに――と、O・Kの意味の二つを含んで言い、次郎がブラシを取り上げて、ひょいと顔を見ると、昼間ハナヤで見た亀吉だった。

「おい、お前ら、兄貴知らんか」

亀吉は豹吉の居所をききに来たのだった。

「兄貴テ……? ああ、あの掏摸さんだっか」

と、次郎と三郎は、昼間ハナヤで豹吉を兄貴と呼んでいたことを、想い出した。

「こらッ、大きな声を出すな!」

街頭で、掏摸という言葉が出ると、さすがに亀吉は臆病だった。

「――あれから、どこイ行きよったか、知らんか」

「さア、知りまへんな。用事だっか」

と、次郎はませた口を利いた。

「用事どころかいな。一大事や」

亀吉は声をひそめた。そして、

「――困ったなア。ほんまにどこイ行きよってんやろなア。ひとがこない探しとるのに……」

と、ブツブツ口の中でひとりごとのように言っていた。

「ハナヤできいても分れしめへんか」

「うん。今、ハナヤへ行って来たばっかしや」

そう言いながら、亀吉はキョロキョロそのあたりを見廻していた。