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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

「それより、大将、ついでやさかい、靴みがきまひょか。大将の靴ドロドロだっせ」

三郎がブラシを取り上げると、亀吉は、

「阿呆! 靴どころのさわぎか。兄貴を探すのにキリキリ舞いしてるんや。さア、ぼやぼやしてられん」

そわそわと行きかけたが、ふと戻って来ると、

「――お前ら、兄貴を見たら、おれが探してる、すぐハナヤか中之島の図書館イ行くように……。いや、中之島は行ったらいかん。ハナヤへ、ハバ、ハバ(早いとこ)行くように、おれが云うてたと、ことづけてくれ」

「オー・ケー」

亀吉は闇の中へ姿を消してしまった。

そのうしろ姿を見送りながら、次郎はぼそんと言った。

「なア、三郎公、掏摸テ豪勢なもんやなア」

「うん」

と、三郎も相槌を打った。

「――いつでも美味いもんは食べられるし……。フズーズボンチでも何でも……」

「阿呆! フルーツポンチや。フズーズボンチとちがうわい」

次郎はさっきと同じように、弟を叱りつけたが、ふと溜息をつくと、

「――しかし、三郎公、どう考えても掏摸テぼろいな。人の靴のドロとっても一円にしかなれへんけど、掏摸はまるどりやさかいな」

「ほな、掏摸になったらええなア」