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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

とにかく、たすけてやらなくっちゃ……」

と、いうことだけだった。そのほかのことは、何にも泛んで来なかった。

強いて言えば、雪子を警官の手から奪うという、大それた暴挙が「何か人をあっといわせるような破天荒なことを今直ぐしてみなくっちゃ、おれの気が済まない……」

という、たった今さき腹の虫を動かせて来た不意の思いつきに、ピッタリ合っているではないかと咄嗟に自分に云いきかせる余裕だけは、さすがに残っていた。

いや、それがあるからこそ、

「たすけよう」

という気がますます強く起ったのだった。

一旦こうしようと思えば、もうどんなことがあっても、あとへ引かぬのが豹吉の性質だ。

豹吉はじっと息を凝らして雪子を連れた警官のあとをつけていた。

警官は橋を渡ると、真っ直ぐ桜橋の方へ歩いて行った。

雪子の白い手には手錠が痛々しく掛けられている。豹吉はその手からじっと眼をはなさず、

「まず、あの手錠を切ることやな!」

と、ひそかに呟きながら、ついて行った。

「――しかし、あの手錠を切ることは、袂を切るよりは、ちょっとむつかしいぞ!」

そう思ったが、しかし、困難ということほど、豹吉にとっては、実行への誘惑をそそるものはまたとないのだ。