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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「何くそ!」
と、力んで、豹吉はいつもの蒼白い額を一層蒼白にしていた。
雪子を連れた警官は、桜橋から右へ折れて、梅田新道の方へ歩いて行った。
闇市はすぐ近くだ。
「雪子を奪って、闇市の雑踏の中へまぎれ込むのや」
豹吉はひそかにそう呟いた。
二人はやがて闇市の傍を通り掛った。
「今だ!」
と、豹吉は叫んで、ズボンの中へ手を突っ込んだ。
そして、いきなり足を進めて、すっと警官の背中へ寄って行こうとした途端、闇市の中からやって来た一人の男が、
「兄貴!」
と、かけ寄って来た。
亀吉だった。
「兄貴、ほんまに殺生やぜ」
と、亀吉は口をとがらせた。
「――一体どこうろついてたんや。ほんまに探すのンに苦労したぜ」
「用事なら早く言え」
豹吉は警官に連れて行かれる雪子のうしろ姿を、気にしながら、いらいらした声で言った。
「兄貴、わいに千円くれるという約束やったな」
「うん。おれを驚かせたらなア」
「兄責、びっくりしなや」
亀吉はポケットから紙片を出して、豹吉に見せた。
「今夜十時中之島公園、図書館の前で待つ」
隼
豹吉へ
二伸 亀吉の二千円は掏らせて貰った。
悪く思うな。
豹吉はちらと眼を通すと、表情一つ変えずに言った。