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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

そこへ寿平次が挨拶に出る。客は定紋の暗合に奇異な思いがすると言って、まだこのほかに替え紋はないかと尋ねる。丸に三つ引がそれだと答える。客はいよいよ不思議がって、ここの本陣の先祖に相州の三浦から来たものはないかと尋ねる。答えは、そのとおり。その先祖は青山監物とは言わなかったか、とまた客が尋ねる。まさにそのとおり。その時、客は思わず膝を打って、さてさて世には不思議なこともあればあるものだという。そういう自分は相州三浦に住む山上七郎左衛門というものである。かねて自分の先祖のうちには、分家して青山監物と名のった人があると聞いている。その人が三浦から分かれて、木曾の方へ移り住んだと聞いている。して見ると、われわれは親類である。その客の言葉は、寿平次にとっても深い驚きであった。とうとう、一夜の旅人と親類の盃までかわして、系図の交換と再会の日とを約束して別れた。この奇遇のもとは、妻籠と馬籠の両青山家に共通なに木瓜と、丸に三つ引の二つの定紋からであった。それから系図を交換して見ると、二つに割った竹を合わせたようで、妻籠の本陣なぞに伝わらなかった祖先が青山監物以前にまだまだ遠く続いていることがわかったという。