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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
荒町の部落ではすでにそれを始めた。
ちょうど、峠の上の方から馬をひいて街道を降りて来る村の小前のものがある。福島の馬市からの戻りと見えて、青毛の親馬のほかに、当歳らしい一匹の子馬をもそのあとに連れている。気の短い問屋の九太夫がそれを見つけて、どなった。
「おい、どこへ行っていたんだい。」
「馬買いよなし。」
「この旱りを知らんのか。お前の留守に、田圃は乾いてしまう。荒町あたりじゃ梵天山へ登って、雨乞いを始めている。氏神さまへ行ってごらん、お千度参りの騒ぎだ。」
「そう言われると、一言もない。」
「さあ、このお天気続きでは、伊勢木を出さずに済むまいぞ。」
伊勢木とは、伊勢太神宮へ祈願をこめるための神木をさす。こうした深い山の中に古くから行なわれる雨乞いの習慣である。よくよくの年でなければこの伊勢木を引き出すということもなかった。
六月の六日、村民一同は鎌止めを申し合わせ、荒町にある氏神の境内に集まった。本陣、問屋をはじめ、宿役人から組頭まで残らずそこに参集して、氏神境内の宮林から樅の木一本を元伐りにする相談をした。
「一本じゃ、伊勢木も足りまい。」
と吉左衛門が言い出すと、金兵衛はすかさず答えた。