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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
中津川の医者で、半蔵の旧い師匠にあたる宮川寛斎も、この一行に加わって来た。もっとも、寛斎はただの横浜見物ではなく、やはり出稼ぎの一人として――万屋安兵衛の書役という形で。
一行四人は中津川から馬籠峠を越え、木曾街道を江戸へと取り、ひとまず江戸両国の十一屋に落ち着き、あの旅籠屋を足だまりとして、それから横浜へ出ようとした。木曾出身で世話好きな十一屋の隠居は、郷里に縁故の深い美濃衆のためにも何かにつけて旅の便宜を計ろうとするような人だ。この隠居は以前に馬籠本陣の半蔵を泊め、今また寛斎の宿をして、弟子と師匠とを江戸に迎えるということは、これも何かの御縁であろうなどと話した末に言った。
「皆さまは神奈川泊まりのつもりでお出かけになりませんと、浜にはまだ旅籠屋もございますまいよ。神奈川の牡丹屋、あそこは古くからやっております。牡丹屋なら一番安心でございますぞ。」
こんな隠居の話を聞いて、やがて一行四人のものは東海道筋を横浜へ向かった。
横浜もさみしかった。地勢としての横浜は神奈川より岸深で、海岸にはすでに波止場も築き出されていたが、いかに言ってもまだ開けたばかりの港だ。