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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
何か気づまりな、じっとしていられないようなふうで、やがてそこを出て行った。
吉左衛門は見送りながら、
「みんなどういう人になって行きますかさ――仙十郎にしても、半蔵にしても。」
若者への関心にかけては、金兵衛とても吉左衛門に劣らない。アメリカのペリイ来訪以来のあわただしさはおろか、それ以前からの周囲の空気の中にあるものは、若者の目や耳から隠したいことばかりであった。殺人、盗賊、駈落、男女の情死、諸役人の腐敗沙汰なぞは、この街道でめずらしいことではなくなった。
同宿三十年――なんと言っても吉左衛門と金兵衛とは、その同じ駅路の記憶につながっていた。この二人に言わせると、日ごろ上に立つ人たちからやかましく督促せらるることは、街道のよい整理である。言葉をかえて言えば、封建社会の「秩序」である。しかしこの「秩序」を乱そうとするものも、そういう上に立つ人たちからであった。博打はもってのほかだという。しかし毎年の毛付け(馬市)を賭博場に公開して、土地の繁華を計っているのも福島の役人であった。袖の下はもってのほかだという。しかし御肴代もしくは御祝儀何両かの献上金を納めさせることなしに、かつてこの街道を通行したためしのないのも日光への例幣使であった。