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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
その目的は、京都の屋敷にある長藩世子(定広)の内命を受けて、京都の形勢の激変したことを藩主に報じ、かねての藩論なる公武合体、航海遠略の到底実行せらるべくもないことを進言するためであった。それよりは従来の方針を一変し、大いに破約攘夷を唱うべきことを藩主に説き勧めるためであった。雄藩擡頭の時機が到ったことは、長いことその機会を待っていた長州人士を雀躍させたからで。
旅にある藩主はそれほど京都の形勢が激変したとは知らない。まして、そんな旅人が世子の内命を帯びて、中津川に自分を待つとは知らない。さきに幕府への建白の結果として、公武間周旋の依頼を幕府から受け、いよいよ正式にその周旋を試みようとして江戸を出発して来たのであった。この大名は、日ごろの競争者で薩摩に名高い中将斎彬の弟にあたる島津久光がすでにその勢力を京都の方に扶植し始めたことを知り、さらに勅使左衛門督大原重徳を奉じて東下して来たほどの薩摩人の活躍を想像しながら、その年の六月中旬には諏訪にはいった。あだかも痳疹流行のころである。一行は諏訪に三日逗留し、同勢四百人ほどをあとに残して置いて、三留野泊まりで木曾路を上って来た。