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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

その不自由な手を洗い、衰えた足をも洗った。

「お父さん、湯ざめがするといけませんよ、またこないだのようなことがあると、大変ですよ。」

病後の父をいたわる半蔵の心づかいも一通りではなかった。

間もなく上の伏見屋の店座敷では、山家風な行燈を置いたところに主客のものが集まって、夜咄にくつろいだ。

「金兵衛さん、わたしも命拾いをしましたよ。」と吉左衛門は言った。「ひところは、これで明日もあるかと思いましてね、枕についたことがよくありましたよ。」

「そう言えば、あの和宮さまの御通行の時分から弱っていらしった。」と金兵衛も茶なぞを勧めながら答える。「吉左衛門さんはあんなに無理をなすって、あとでお弱りにならなければいいがって、お玉ともよくあの時分におうわさしましたよ。」

「もう大丈夫です。ただ筆を持てないのと、箒を持てないのには――これにはほとんど閉口です。」

「吉左衛門さんの庭掃除は有名だから。」

金兵衛は笑った。そこへ伊之助も新築した家の方からやって来る。一同の話は宿場の前途に関係の深い今度の参覲交代制度改革のことに落ちて行った。

「助郷にも弱りました。」と言い出すのは金兵衛だ。