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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
半蔵はそれを機会に、往復数日のわずかな閑を見つけて、医薬の神として知られた御嶽の神の前に自分を持って行こうとした。同時に、香蔵の京都行きから深く刺激された心を抱いて、激しい動揺の渦中へ飛び込んで行ったあの友だちとは反対に、しばらく寂しい奥山の方へ行こうとした。
王滝の方へ持って行って神前にささげるための長歌もできた。半蔵は三十一字の短い形の歌ばかりでなく、時おりは長歌をも作ったので、それを陳情祈祷の歌と題したものに試みたのである。
「いよいよ半蔵もお出かけかい。」
と言ってそばへ来るのは継母のおまんだ。おまんは裏の隠居所と母屋の間を往復して、吉左衛門の身のまわりのことから家事の世話まで、馬籠の本陣にはなくてならない人になっている。高遠藩の方に聞こえた坂本家から来た人だけに、相応な教養もあって、取って八つになる孫娘のお粂に古今集の中の歌なぞを諳誦させているのも、このおまんだ。
「お母さん、留守をお願いしますよ。」と半蔵は言った。「わたしもそんなに長くかからないつもりです。三日も参籠すればすぐに引き返して来ます。」
「まあ、思い立った時に出かけて行って来るがいい。