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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

「勝重さん、君もそう長くわたしのそばにはいられまいね。来年あたりは落合の方へ帰らにゃなるまいね。きっと家の方では、君の縁談が待っていましょう。」

「わたしはもっと勉強したいと思います。そんな話がありましたけれど、まだ早いからと言って断わりました。」

勝重はそれを言うにも顔を紅らめる年ごろだ。そこへ禰宜が半蔵を見に来た。禰宜は半蔵のことを「青山さん」と呼ぶほどの親しみを見せるようになった。里宮参籠記念のお札、それに神饌の白米なぞを用意して来て、それを部屋の床の間に置いた。

「これは馬籠へお持ち帰りを願います。」と禰宜は言った。「それから一つお願いがあります。あの御神前へおあげになった歌は、結構に拝見しました。こんな辺鄙なところで、ろくな短冊もありませんが、何かわたしの家へも記念に残して置いていただきたい。」

禰宜はその時、手をたたいて家のものを呼んだ。自分の子息をその部屋に連れて来させた。

「青山さん、これは八つになります。おそ生まれの八つですが、手習いなぞの好きな子です。ごらんのとおりな山の中で、よいお師匠さまも見当たらないでいます。どうかこれを御縁故に、ちょくちょく王滝へもお出かけを願いたい。