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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

吉左衛門はおふきの前から、出入りの百姓たちの前へ動いて、

「さあ、やっとくれや。」

とそこにある銚子を持ち添えて勧めた。百姓の一人は膝をかき合わせながら、

「おれにかなし。どうも大旦那にお酌していただいては申しわけがない。」

隣席にいるほかの百姓が、その時、吉左衛門に話しかけた。

「大旦那――こないだの上納金のお話よなし。ほかの事とも違いますから、一同申し合わせをして、お受けをすることにしましたわい。」

「あゝ、あの国恩金のことかい。」

「それが大旦那、百姓はもとより、豆腐屋、按摩まで上納するような話ですで、おれたちも見ていられすか。十八人で二両二分とか、五十六人で三両二分とか、村でも思い思いに納めるようだが、おれたちは七人で、一人が一朱ずつと話をまとめましたわい。」

仙十郎は酒をついで回っていたが、ちょうどその百姓の前まで来た。

「よせ。こんな席で上納金の話なんか。伊勢の神風の一つも吹いてごらん、そんな唐人船なぞはどこかへ飛んでしまう。くよくよするな。それよりか、一杯行こう。」

「どうも旦那はえらいことを言わっせる。」と百姓は仙十郎の盃をうけた。

「上の伏見屋の旦那。