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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
さすがに金兵衛はおちついたもので、その不安の中でも下男の一人を相手に家に残って、京都から来た飛脚に駄賃を払ったり、判取り帳をつけたりしていた。
「どうも今年は正月の元日から、いやに陽気が暖かで、おかしいおかしいと思っていましたよ。」
それを吉左衛門が言い出すと、金兵衛も想い当たるように、
「それさ。元日に草履ばきで年始が勤まったなんて、木曾じゃ聞いたこともない。おまけに、寺道の向こうに椿が咲き出す、若餅でも搗こうという時分に蓬が青々としてる。あれはみんなこの地震の来る知らせでしたわい。なにしろ、吉左衛門さん、吾家じゃ仙十郎の披露を済ましたばかりで、まあおかげであれも組頭のお仲間入りができた。わたしも先祖への顔が立った、そう思って祝いの道具を片づけているところへ、この地震でしょう。」
「申年の善光寺の地震が大きかったなんて言ったってとても比べものにはなりますまいよ、ほら、寅年六月の地震の時だって、こんなじゃなかった。」
「いや、こんな地震は前代未聞にも、なんにも。」
とりあえず宿役人としての吉左衛門や金兵衛が相談したことは、老人女子供以外の町内のものを一定の場所に集めて、火災盗難等からこの村を護ることであった。