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よぎしゃ

夜汽車

牧 逸馬

「探偵文藝」1925(大正14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,725 字 · 6 页

青空文庫

ということなぞをぼつぼつ話していた。話は途絶え勝で、フリント君は大っぴらに欠伸をした。気の置けない小都会の世話役らしいこの男の淳朴さがフリント君の気に入った。

「ここが空いてるじゃねえか」

突然に大きな声がして、無作法な服装をした青年が、よろよろしながら、向うの客車から這入ってきた。酔っているらしかった。何か喚くように言って、無理に娘の傍へ腰を下ろそうとした。サンドウイチか何かつつましやかに食べていた女は、恐怖と困惑に狼狽して急いで立上ろうとした。

「あ、やったな」と青年が怒鳴った。

「あら、御免下さい。私ほんとに、何うしましょう。つい、何の気なしに押したんですもの」

「何の気なしに? へん、それで済むと思うか。そら、見ろ、こんなに滅茶滅茶に毀れたじゃないか」

上衣の隠しから彼は時計を出して、娘の前へ突きつけた。よろめきながら豪い権幕で彼は怒鳴り続けた。「何うするんだ。おい、何うして呉れるんだ」

娘は火のように赤くなった。今にも泣出しそうにおろおろしていた。中世紀の騎士の血を承けているフリント君は気がつく前に立ち上っていた。

「君、君、何だか知らないが言葉使いに気を付け給え、相手は女じゃないか」