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よながひめとみみお

夜長姫と耳男

坂口 安吾

「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,604 字 · 56 页

青空文庫

ましてオレが造ったバケモノなぞは、この笑顔が七ツ八ツのころのママゴト道具のたぐいであろう。

「珍しいミロクの像をありがとう。他のものの百層倍、千層倍も、気に入りました」

というヒメの言葉を思いだすと、オレはその怖ろしさにゾッとすくんだ。

オレの造ったあのバケモノになんの凄味があるものか。人の心をシンから凍らせるまことの力は一ツもこもっていないのだ。

本当に怖ろしいのは、この笑顔だ。この笑顔こそは生きた魔神も怨霊も及びがたい真に怖ろしい唯一の物であろう。

オレは今に至ってようやくこの笑顔の何たるかをさとったが、三年間の仕事の間、怖ろしい物を造ろうとしていつもヒメの笑顔に押されていたオレは、分らぬながらも心の一部にそれを感じていたのかも知れない。真に怖ろしいものを造るためなら、この笑顔に押されるのは当り前の話であろう。真に怖ろしいものは、この笑顔にまさるものはないのだから。

今生の思い出に、この笑顔を刻み残して殺されたいとオレは考えた。オレにとっては、ヒメがオレを殺すことはもはや疑う余地がなかった。それも、今日、風呂からあがって奥の間へみちびかれて匆々にヒメはオレを殺すであろう。