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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
を披いて見た。静岡からこの地に舞い戻って来た当時古本屋をあさって『五教章』の講義と共に、最初に購ったのがこの書である。彼の頭にいつも太子がこびりついていた。それでこういった書物は計画的に出ないでも、自然に懐にはいってくる。それを彼は格別怪しみもしないでいる。
鶴見はその『伝暦』を見て、太子薨去の時の宝算が四十九歳、または五十歳でおわしたことを知った。「そうして見れば、明治八年は薨去後一千二百五十年。それに宝算を加えて、まあ、ざっと一千三百余年になる。計数のことは不得手だが、そんなところだろうな。妙なことをいうようだが、おれの回想のなかで産声をあげた小さな魂は、幸か不幸か、そんな年廻りを身につけて生れて来たのだ。これが歴史の業因というものだ。」
この時、突如として例の景彦が現れる。景彦は目を瞋らしてはいるが、言葉は急に口を衝いて出てこない。しわがれたような、慎み深いささやきが聞える。それはただの一言である。
「たわけめ。」
鶴見はこれを聞いてぞっとした。しばらくしてから、こういった。
「生れて来た子供は、よかれあしかれ、そんな運命の枷の中で苦しまねばならないのだ。