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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
それがまたどうしたことか、五彩の星が乱れ飛んだぐらいで終ってしまった。あまりにもあっけない。「あれは遣りそこなったのだ」といって皆が失望している。流星は長い間の伝統を維持して来ただけに、構造製作が原始的であるのは免かれ難い。しかもここ数年中止していた挙句のことで、余計不手際になったのであろう。それでも鶴見は満足した。鶴見としては彼の花火に関する閲歴にめずらしい一例を加え得たのである。米国大統領の観覧に供した両国橋畔の大花火のことが自然に想起される。それは母に抱かれていた幼時のこと、これは草深い地方の田園で由緒ある花火に興じたこと、恐らくはこれがおれの花火に関する閲歴のとじめになるだろう。鶴見はそう思ってみて、更に深い感慨に耽るのである。
さて元へ戻るにしても、母の膝にあがって仕掛花火に火のつく度ごとに手を拍ってよろこんだ元の桟敷へは戻れない。深々と幌をかけた車の中で、帰路を急がせる切ない思いをして、母はしっかり幼児を抱えている。花火見物の最中に天候が一変してひどい雷雨となったからである。電光が幌を破るようにして隙間から射し込んで来る。おりおり神解けがするもようである。