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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

今度の継母は父と同じ藩の然るべき武士の家から出ていたので、そういう窮乏組の女たちがよく尋ねて来て、繰り言をいって、為すこともなく一日を暮らして行った。

継母は継母で一家の経済を極端につましくした。

これまでぼんやり育って来た鶴見にはまだ買物をする呼吸がわからない。いつでも同じ事であるが、その頃の商人はことにこすかった。こすいのはまだ好いがごまかしをやった。空缶を持って行って煎餅を買いにやられる。買って来ると、

「何といって買ったの。」継母から意外な問が出る。

「この缶にいくらだけ入れてくださいといいました。」鶴見にはまだ様子がわからないので、そういって正直なところを打あける。

「そんな迂濶なことで好いのかね。これからは品物を缶に入れさせて置いて、これでいくらと聞いてみるのだね。ごまかされるよ。」

事ごとにこんな風にたしなめられて今までに覚えぬつらさを感じた。

鶴見はこうして、日々に鍛え上げられる。些細なことのようであるが、それでも効果はあった。鞭をあげているのは継母の手を借りた人生の世智辛さであるということが、追々に納得が出来るようになる。人心の機微を察するということも、こうしているうちに、見当がつくようになる。