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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
鶴見は老いてもまだたやすくは死ぬまいと決心したのである。
近ごろこれを読めといって文庫本の一冊を、知人が置いていった。鶴見はこれを感謝して、早速に披いて見た。『ラサリーリョ・デ・トルメスおよびその幸運と不運との生涯』というのがこの小冊子の全題である。こんな風に長々と標榜したところに、いかにも中世らしい好みを、読むに先だって窺うことが出来る。スペインの説話である。鶴見はそう思って、のどかな心持ちになって、何げなく巻を披くと、そのとっぱなから頭をがんとなぐられたように感じて、はっとする。疲れ切っていた心身も急に緊張してはずみだす。
ラサリーリョ少年が奸黠な座頭の手引きとなって連れて行かれる途中で、橋飾りの牡牛の石像に耳をつけて聞けばどえらい音がしているといって、座頭はいきなり少年の頭を石像にぶっつけたのである。そして悪魔よりちっとばかり利口になれるのだと笑っている。これで今まで無邪気であった少年は目を覚ました。生きる上には相応な智慧を持たねばならない。少年はこの座頭からこうしてその智慧を授かるのである。
鶴見はこの中世の説話を説話なりには聞いてはいられなかった。