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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

そこに見られるのは不満の穎割葉である。かれはいつのまにか生意気になってきた。

そのうちに中学の業を終える。明治二十五年である。少年期から青年期に入る。事の順序は表面平穏に推移するが、少年から青年に経過するその間の変遷は実際には驚くべきものがある。ただ一線を劃するのでなくして、平地に山のような波瀾を起すのである。別天地に入るのである。

性慾がはじめて問題になる。性慾は止むに止まれぬ本能の発露である。思想などとは違って徐々に進行するものではない。突如として湧いて出てくる。それが青年期の特調をかたちづくるのである。青年期への新入者は性慾を抑制する術を知らない。手綱をかけられぬ性慾は恣に荒れまわる。鶴見は最初から性慾道をそんな風に経験したのである。

恋愛と性慾とをしばらく別な物としてみれば鶴見には性慾があって恋愛は殆どなかったといって好い。あとから顧みて少しはなつかしいと思い出されることのあるのは、初恋のほんの取りつきばなの短期間だけである。その期間のみが恋愛の手ほどきであったかと思えば、それはそれなりで、あわれを誘う夢ともなる。当時流行の束髪で、前髪を切って垂らした額つき、眉と眉とが神経質を思わせて迫っているように見え、その上に黒目がちで眉毛の濃い、切れ長の瞼が、おのずからにあらわす勝気を、うら若い微笑の花が